2020/09/04
新卒で香港の総勢9人のEdTechスタートアップに就職した話

7月に修士論文を提出し2019-2020年度の春夏学期をもって香港科技大学の修士課程(計算機科学工学)を修了しました(*1)。修士過程に進学する前に就業していたので新卒というのも微妙ですが、EdTech事業を行う小さな会社に就職して働き始めたので就活周りについてまとめます。

時間の流れ

日本で修士号をとって就職する場合だと通常は一年かけて準備するか教授から推薦をうけるようなイメージなのですが、僕の場合はそもそも香港は日本ほどしっかりとした新卒の採用フローがないことと、以前日本でも働いたので中途でも良かったことから、就活自体はだいぶ早く進めることができました。ほぼ6月に始めてから8月の中旬に働き始めているのでおよそ2ヶ月半で就活が終わったことになります。

  1. (5/29) 卒業後はPhDに進学せずに就職することを決める(就活に関する情報を集め始める)
  2. (6/18) 修論審査で条件付き合格(軽微な修正)
  3. (7/5) 修論提出 & 就活開始
  4. (7/13) 卒業生向けの就業ビザ申請
  5. (7/27) 最初の面接
  6. (8/3) 卒業生向けの就業ビザが発効
  7. (8/5) 内定
  8. (8/13) 内定を承諾
  9. (8/17) 就労開始

急速に就労まで至ったのは就活が早かったのもそうですが、中途枠で入るときには内定が出てからそれをキープして就活を進めることが難しいというのもあります。内定が出てから一週間も待たせると向こうのほうから愛想を尽かして取り消される恐れがあるそうなので、内定が出てからは他の求人を待つこともできずにそのまま決めてしまった、という感が強いです。

なぜ香港で働くのか?

一番大きいのは永住権の問題です。

香港で7年間連続で何かしらのビザをもって住むことで香港の永住権がもらえます。香港は税制や起業環境などで日本にない魅力が大きい一方競争が激しく、日本は大きな経済成長が見込めないものの国民への様々な生活支援が手厚いというかなり違った社会です。このような相異なる日本と香港の社会に両方にいつでも帰属できるようになることが、自分のキャリアの上でも将来の家族のためにも大きな財産になると考えています。

なぜ小さなスタートアップで働くのか?

実をいうと狙ってこういった小さな会社に入ったわけではありませんでした。というよりむしろ僕としてはあまり小さい会社では働きたくないと思っていました。人数が少なく分業がうまくいっていない組織では、例えば本業と異なる電話対応や役所の書類業務に駆り出されて設計やコードを書く機会を失うといったことが起こり、結果技術者としてのキャリア形成に失敗することが起こりうるからです。

それでもなぜ9人の小さな会社に入ったかと言えば、こんなに小さい会社だと知らなかったからなんです。とは言え、すでに多くのサブスク契約のある安定した製品が市場に投入されているので、人数のわりに会社の段階としては割と成熟していて、分業もしっかり整備されています。仕事も技術関連のことに集中できており、幸いでした。

なぜEdTechなのか?

香港と言えば金融業が盛んなので金融関連に就業するのがいいかなと思い、いくつか受けたのですが、業界知識が重要なのか低レベル開発というやや特殊な技能が要求されることが多いせいか(後述)金融機関の傾向として同業他社で働いた経験を傾向があり、なかなかうまくいきませんでした。そもそも銀行経験がないと募集要件にも満たない物も多く、仕方なくロボットなどこれから盛り上がりそうな分野の事業を中心に探している中、たまたま見つけたのがこのEdtechの会社だったというだけの話です。

実のところこの業界で良かったのか不安はあります。先ほど言ったように金融業は金融業経験者を優遇しますし、当然 EdTechは金融行ではありません。ということは僕はこの先(たまたま金融業界未経験でも技術者としての職歴が十分なら入れる求人が出ない限り)永遠に金融機関で働けないわけですね。どうしても金融ってわけではないのでいいのですが、もう少し粘って金融業で多少給料に妥協していれば将来の可能性を拡げる意味では良かったのではと考えてしまいます。

ここまで読んでいただいた方はもうお分かりかと思いますが、大体の方向性は決まっている以外はだいぶ意識が低い就活生で、流されてここまで偶然たどり着いたような感じです。結果としては概ね満足しております。

自分の能力

  • Webアプリ開発15ヶ月
    • Java, Spring
    • Git, Jira
      • こういうのは当たり前かなとも思うのですが、結構就職の要件に書いてあることが多いのでので一応履歴書にも書いた
    • ウォーターフォール開発
  • ポートフォリオ数件
    • TypeScript, ReactJS
  • 研究・学歴
    • 修士号(計算機科学・計算機工学)
    • 人工知能
    • Python

香港での仕事の探しかた

僕の場合はLinkedInのプロフィールをしっかり整えて探すのが最初でした。ただ、小さい会社であればあるほどLinkedInに求人を載せるというよりは人事エージェントの紹介に頼っている感じがあり、向こうが自分の能力や経験にあう求人を選んで紹介してくれるので非常に効率的です。人事エージェントが出しているLinkedInの広告に応募することで人事エージェントと繋がることができます。あとはLinkedInのプロフィールを整えておくと向こうから声をかけてくれることも多々ありました。日本では重用されている印象がなくちょっと面倒ですがLinkedInプロフィールは定期的に整備した方が良さそうです。

ビザについて

IANG(=Immigration Arrangements for Non-local Graduates)ビザは、香港の大学を卒業した香港永住者以外に提供されるビザで、卒業さえすればほとんど審査なく1年間香港に滞在できます。学生ビザで就労はかなり厳しく制限されていますが、IANGビザに切り替われば就業は自由になりますのでその間に就活をやってくださいということなんでしょう。学部生、修士課程、博士課程問わず(フルタイムだけ?)発給されるので、もし香港に関心がある場合は、一年生の修士課程を香港で卒業してIANGビザを取得するのが一つの効率的な方法になりそうです。交換留学生は香港の大学をそもそも卒業しないので対象でないことに注意してください。

面接で聞かれたこと

簡単に記憶に残っている質問をまとめます。香港で働く機会を探されている方の参考になれば幸いです。

広東語が話せるか

広東語は香港で話されている中国語の方言です。どこにしても働く場合には当然現地の言葉が必要になってくるので仕方のない事ですが、広東語(または中国語でもいい場所も多い)が要求されることが多いです。

語学留学をしていたわけではないので、大学の中で学ぶ機会も必要もなかったわけですから、求人に広東語が要件になっているものは避けていたのですが、一度書いていないのに電話してみたら「広東語話せるか」聞かれていいえと答えると速攻でブチ切られたことがあって悲しくなりました。

なぜ香港にきたのか

これは多分会社の関心というよりは、面接した人個人の関心だと思いますが。。

僕は香港は国際経済の中心でより多くの機会がありそうだから、とか単に面接者のカジュアルな質問っぽい時には雑に香港が好きだからとか答えてました。

前の仕事を辞めた理由

香港は全体的に結構転職の激しい労働環境になっていて、3年くらい同じ職場で働くと長く働いた人と見做されます。それでも職場に何もかも満足していたらわざわざ転職しないのはその通りなので、退職をネガティブにみるところは日本と大きくは変わらないです。また、そのためあまりに頻繁に職を変える人(3ヶ月で辞めるのを繰り返すなど)は敬遠されます。そういう背景もあって結構この質問は良くある質問だそうです。

今回自分の場合は「大学院進学のため」というのがはっきりしていたので、この質問自体が問題になる印象ありませんでした。ただこれから香港でキャリアを積み重ねていくとなると、働く期間・転職のタイミングなどに注意してこの質問に有効に答えられるように準備していく必要がありそうです。

給料はいくら欲しいか/前職はいくらもらっていたか

中途採用らしいというか香港らしいというのか結構直球で聞かれます。そしてこの手の交渉はちょっと苦手なので困りました。今になってもっと高めに言っておけば良かったと後悔しています。。

日本人が香港で働くということ

割とスムーズに結果がもらえた会社は「日本人にいて貰えると助かりそうだ」くらいの気持ちがありそうな会社でした。

  • 日本から技術移転を受けていて、日本の技術者と話しながら開発する機会がある
  • 日本から投資を受けていて、日本の投資家と交渉の機会が多かった
  • 日本の市場向けの製品を作っている

おそらく技術の要件を満たしている数人の候補者の中から選ぶ時に最後の決め手として「ここで日本語話せる人を採用しておくか」くらいの気持ちで採用されたんだろうと思っています。こういった「日本語を要件にして募集を行うことはわざわざしないけど、たまたま応募があればとりたい」くらいの職場は意外にあり、そういう職場とかっちり噛み合うと中国語や広東語といった言語の問題や外国人を雇用する抵抗感を乗り越えて職場に入り込める、というのは面白い発見でした。

給料とキャリアパス

さて慣れない外国での就業をわざわざ頑張って、結局日本に比べて給料やキャリア開発はそれに見合うものなのでしょうか。

給料に関して言えばどっこいどっこいですが、税金と社会保険料などの負担が軽い分手取りは大きくなります。ただ、一般に香港では家賃がえげつないくらい高いので、日本水準での生活を求めると日本の方が貯金はできそうです。

ただ香港の業界に良く合った技術をもっている方は日本とは比べ物にならない給料を得ることができそうです。僕は詳しくないのですが、もし低レベルの開発に詳しく遅延が少ないシステムの構築ができるなら、銀行の取引ソフトの保守開発などに従事されると月収は80K(HKD)(およそ112万円)くらいになりそうな印象です。このあたりの低レベル技術をもってらっしゃる方は、日本ではイケイケのベンチャーで若い時からいい給料を得るよりも大企業で徐々に給料を上げていく印象がありますが、そういう方に関しては香港の方が圧倒的に優れた待遇で働ける可能性があります。

キャリアパスですが、まだ始まったばかりなのではっきりしたことは言えません。印象でいった日本との違いとして、技術者のままでも給料がおおきくなる余地が大きいということです。日本では技術者がより良い待遇をうけるには出世してより上流の工程に進み、いづれは開発を離れて経営に参画していくのがある種の王道感があります。一方で香港では、上述のような低レベルの技能があればそれで十分の待遇をうけることができますし、僕のようなフルスタック型の技術者でも技術を広げていくことでシステムアーキテクトの役割を担えれば年収で1000万円もよくある例です。一方で分業がかっちりしているのでここから経営やビジネスにより強く寄った役割は担えません。例えば、IT系のコンサルタントでも最初から技術系のコンサルタントとしてのキャリアを始めて積み上げてきた人を募集しているように見受けられます。

総合すると日本と香港の環境は方向性が違って比べるのが難しい上に、無理に比べてもどっちもどっち感があります。これだけ環境が違うからこそ、日本国籍を維持しつつ香港での永住権を獲得することで、どっちもいつでも選べるようになることに魅力があると思っています。

(*1) 厳密には現在は卒業見込み。要件は全て満たしていることを確認したという文書も大学に発行されたので余程ここから卒業できなくなることはないと思いますが。。。